映画「ハンニバル・ライジング」解説。ハンニバルの復讐の悲しさとは?

※アフィリエイト広告を利用しています。

映画「ハンニバル・ライジング」解説。ハンニバルの復讐の悲しさとは? 映画レビュー

映画「ハンニバル・ライジング」は、トーマス・ハリス著のハンニバル・レクター・シリーズの四作目である「ハンニバル・ライジング」を映画化したものです。

第二次世界大戦下のリトアニアで、両親を亡くし、妹を殺害されたハンニバル・レクターの幼少期から青年期までの物語です。

溺愛していた妹が殺害された過去が、ハンニバルを復讐へと駆り立てます。

復讐を終えても、彼の心は癒されることはありませんでした。

復讐の結果として、「人食いハンニバル」という猟奇殺人犯が誕生してしまう悲しい物語です。

この記事では、映画「ハンニバル・ライジング」あらすじや見どころを解説し、「ハンニバルの復讐の悲しさ」に焦点を当てた独自の感想を紹介します。

ハンニバルの過去を深く考察することで、ハンニバルの思考や行動の意図を理解することができます。

ハンニバルのキャラクターを深く知ることは、他のハンニバルシリーズ作品をより楽しめる要素にもなることでしょう。

解説や感想は、ネタバレを含みますので、ご注意ください。

映画「ハンニバル・ライジング」あらすじ

雪景色の中に建つ山小屋

ハンニバルは、リトアニアの名門貴族であるレクター家の子として育てられました。

1944年、独ソ戦の激しい戦闘が繰り広げられ、戦禍を逃れるためにレクター家は住んでいた城から離れ、山小屋に避難しました。

しかし、そこでもソ連軍とドイツ軍の戦闘に巻き込まれ、幼いハンニバルは両親を失います。

山小屋には、ハンニバルと妹のミーシャと二人だけになってしまいます。

ある日、対独協力者のグルータスらが2人が居る山小屋に逃げてきます。

ハンニバルとミーシャは拘束され、苦しみの日々を送ります。

彼らは空腹に耐えられず、ハンニバルの前でミーシャを殺して食べるという悪魔のような所業を行います。

この出来事によって、ハンニバルは深いトラウマを抱え、記憶を失ってしまいます。

8年後、ハンニバルはソ連の孤児院であるレクター城に収容され、過去のトラウマに悩まされながら、成長していきました。

やがて、彼はフランスの叔父のもとに向かうことを決意し、逃亡に成功します。

叔父の家に到着するも、叔父はすでに亡くなっており、未亡人となったレディ・ムラサキが一人で住んでいました。

そして、ハンニバルはムラサキのもとで新しい生活を始めることになりました。

しかし、ムラサキが肉屋の男に侮辱されたことで、ハンニバルの狂気が目覚めてしまいます。

ハンニバルにとって、妹のミーシャを失って以来の唯一の家族がムラサキです。

妹と同様に家族を傷つける者への憎悪が蘇った瞬間でした。

映画「ハンニバル・ライジング」登場人物

書類を手に持つ医者

主な登場人物を紹介します。

ハンニバル・レクター

本作の主人公。

独ソ戦の戦禍で、両親が亡くなる。さらに、山小屋に逃げ込んできた対独協力者に、妹のミーシャが殺され食べられてしまいます。

この悪夢のような出来事が、猟奇殺人犯である「人食いハンニバル」を生み出すことになります。

ミーシャ・レクター

ハンニバルの妹。

ハンニバルに溺愛されており、愛らしい笑顔が印象的です。

飢えに苦しんでいた対独協力者たちに、殺害されてしまいます。

レディ・ムラサキ

ハンニバルの叔父の妻であり、日本人。

ハンニバルの叔父は他界しており、1人でパリで暮らしていました。

ムラサキは、広島の原爆で家族を亡くして居るため、戦争孤児となったハンニバルの心傷に寄り添います。

グルータス

ハンニバルとミーシャが避難した山小屋に、逃げ込んできた対独協力者たちのリーダー的な存在。

飢えの苦しみから、ミーシャを殺害して、食べるという残虐な行為を働きました。

映画「ハンニバル・ライジング」キャスト

映写機

映画「ハンニバル・ライジング」のキャストの魅力を紹介します。

主役である青年期のハンニバルは、ギャスパー・ウリエルが狂気を見事に演じ切っています。

また、コン・リーが演じたレディ・ムラサキは、包容力と妖艶さを持っており、ミステリアスな魅力に溢れています。

美しい狂気に満ちた若きの日のハンニバルを演じたギャスパー・ウリエル

主役である青年期のハンニバルは、ギャスパー・ウリエルが狂気を見事に演じ切っています。

ギャスパー・ウリエルが演じた青年ハンニバルの狂気は「美しさ」にあると思います。

容姿が美しいだけでなく、所作が美しいことが印象的であり、「冷酷さ」と「美しさ」が同居していることが、狂気を生み出しています。

妹の敵である対独協力者たちを殺害するシーンでも所作の美しさや犯行中に見せる笑顔は、後のハンニバル・レクターを彷彿させます。

また、劇中に見せる笑顔は、映画「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンスのハンニバルに引けを取らない演技だと思います。

ギャスパー・ウリエルの演技が、映画「ハンニバル・ライジング」の一番の魅力と言っても過言ではないでしょう。

ギャスパー・ウリエルは、フランスの俳優で、「ジェヴォーダンの獣」(2001年公開)で映画に初出演を果たしました。

「ロング・エンゲージメント」(2004年公開)で準主役に抜擢され、セザール賞の有望若手男優賞を受賞。

セザール賞とは、フランスの映画賞のことです。フランスの映画界では、最も権威がある映画賞です。

「ハンニバル・ライジング」(2007年公開)で、ハンニバルの青年時代を演じ、世界的にも有名になりました。

その後も、「SAINT LAURENT/サンローラン」(2014年公開)でリュミエール賞主演男優賞を受賞し、将来を期待されていましたが、2022年にスキー事故により、享年37歳で亡くなりました。

コン・リーが演じるレディ・ムラサキのミステリアスな魅力

コン・リーが演じるレディ・ムラサキは、ハンニバルの憧れの対象として、存在感がある演技を発揮しています。

レディ・ムラサキは日本人という設定であり、劇中には日本的な要素がちりばめられています。

舞台であるパリでは、異国情緒があふれる日本文化の雰囲気とコン・リーの妖艶な雰囲気が合わさり、劇中がミステリアスな魅力に包まれています。

映画「ハンニバル・ライジング」は、コン・リーが演じる日本人のヒロインが生み出すミステリアスな雰囲気も見どころです。

コン・リーは、中国映画「紅いコーリャン」(1987公開)で、映画デビュー。

その後も様々な中国映画に出演し、映画「きれいなおかあさん」で中国の映画賞だけでなく、フランスの文化勲章を授与されました。

「SAYURI」(2005年公開)でハリウッド映画に初出演。

さらに、「マイアミ・バイス」(2006年公開)、「ハンニバル・ライジング」(2007年公開)とハリウッド映画に立て続けに出演しました。

映画「ハンニバル・ライジング」解説

公園で手を繋いで歩く兄弟

映画「ハンニバル・ライジング」の登場人物たちの行動や心理を解説します。

ハンニバルの復讐の理由

ハンニバルの復讐の理由は、妹のかたき討ちです。

それだけの単純な理由ですが、ハンニバルの憎しみは深いものでした。

ハンニバルの憎しみは、妹を殺害した男たちを殺すだけでは満たせません。

「目には目を歯には歯を」というハムラビ法典に登場する言葉のように、妹が受けた苦しみと同等の仕打ちをもって復讐を成し遂げます。

この同等の仕打ちとは、妹を殺害した男たちを食べるという行為でした。

復讐から始まったカニバリズムが「人食いハンニバル」の原点となりました。

ハンニバルはなぜミーシャを食べてしまったのか

ハンニバルがミーシャを食べてしまった経緯は、グルータスのセリフからわかります。

「妹を食った人間は全て殺すんだろ。じゃあ自分も殺せ。スープに肉が入ってた。お前も食った。何も知らずに」

ハンニバルは、グルータスたちが作ったスープに入っている肉を、ミーシャの肉だと知らずに、食べてしまったのです。

ハンニバルは否定しますが、飢餓状態から生還している点を考えると、事実の可能性が高いです。

生きるためであり、知らずに食べてしまったとはいえ、ハンニバルには受け入れがたい事実であったことでしょう。

ハンニバルと決別したムラサキのその後

ハンニバルと別れたムラサキは、日本に帰国しています。

原爆で家族を失った経験から、戦後復興のために余生を捧げました。

ハンニバルと同様にムラサキも戦争で家族を失った経験があったため、ハンニバルを献身的に支えようとしたのかもしれません。

映画「ハンニバル・ライジング」感想

花に指先で触る手

ここでは、映画「ハンニバル・ライジング」に独自の感想を加えて、映画の魅力を紹介したいと思います。

妹を溺愛したハンニバル

映画の冒頭から、ハンニバルがミーシャのお世話を積極的にしているシーンが描かれていました。

ミーシャの名前の頭文字である「M」をハンニバルが書いて教えたり、お風呂に入るミーシャと遊んでいました。

両親が躾けられてミーシャを見守っていたというよりは、ハンニバルがミーシャを溺愛していたために、積極的にお世話をしていたように感じました。

両親を失ったことで、ハンニバルは妹を守り抜くことが唯一の生きがいだったと思います。

生きがいである妹を目の前で殺害された上、食料として扱われたことで、ハンニバルは生きる意味を失ったのではないでしょうか。

ハンニバルは、ムラサキに出会い平穏な日々を送りますが、ムラサキが肉屋の男に侮辱されたことがきっかけで、復讐心に駆られます。

このときに生まれた復讐心がハンニバルの新たな生きる意味になったのだと思います。

ハンニバルの復讐はなぜ悲しいか

ハンニバルの復讐が悲しい理由は、復讐によって、ハンニバルが猟奇殺人犯になってしまったからです。

劇中で、ポピール警視の「雪原で妹が死んだ時に、ハンニバルの心も死んだのだ。では今のハンニバルはなんだろう。モンスターだ」というセリフがあります。

ハンニバルは復讐で失った心を取り戻そうとしたのかもしれません。

しかし、復讐を果たしても、ハンニバルの心は満たされず、そのあとも殺人を繰り返すことになります。

「人を食べる」という行為は、妹の弔いのために始めた行為でしたが、後に「人食いハンニバル」と呼ばれる所以となりました。

妹を殺されたトラウマを背負った幼いハンニバルは被害者でした。

何の罪もなかったハンニバルが復讐により、猟奇殺人犯として狂っていく様子は悲しみを誘います。

ハンニバルとムラサキが決別した理由

ハンニバルとムラサキが決別した理由は、ハンニバルがミーシャの復讐を果たして「狂人」として完成してしまったからだと思います。

ムラサキはハンニバルが人並みに幸せを誰よりも願っていた存在です。

ハンニバルが復讐だけを果たしただけであれば、決別しない選択肢もあったかもしれません。

ですが、ハンニバルが殺人を楽しんでいる「猟奇殺人犯」とムラサキは感じたのでしょう。

ハンニバルは自分の手には負えない存在であり、一緒に生きていくことはできないと判断し、決別したと考えられます。

吐き捨てるようにハンニバルに「あなたに愛に値するものはあるの?」と言ったのは、ハンニバルへの別れの言葉と推察します。

ミーシャとクラリス

映画「羊たちの沈黙」では、ハンニバルがクラリスを気に入り、捜査協力をします。

ハンニバルがクラリスに心を開いたのは、クラリスに妹のミーシャを投影しているからではないでしょうか。

自分に助けを求めてくるクラリスが、ハンニバルの兄としての気持ちを喚起させたと考えられます。

また、クラリスは肉親を失うというトラウマを抱えて生きています。

ハンニバルとミーシャも両親を失っているので、この境遇も相まって、ミーシャとクラリスを重ねたのかもしれません。

まとめ

映画「ハンニバル・ライジング」は、個人的には名作だと評価しています。

映画「ハンニバル・ライジング」で描かれているハンニバルのキャラクターは、後のハンニバルシリーズと一貫性があり、見応えがあります。

原作者であるトマス・ハリス自身が脚本を手がけたことで、原作の世界観を忠実に再現しつつ、新たな視点から物語を展開しています。

ぜひ、映画「ハンニバル・ライジング」を観て、その魅力に浸ってみてください。

映画のストーリーや登場人物を考察することが好きです。
映画は「自分探しの旅」。
ブログを通じて、皆様の旅のサポートができたら、うれしいです。

ミシェルをフォローする
映画レビュー
シネマの旅人